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大阪地方裁判所 昭和58年(レ)41号 判決

控訴人(原審原告)

株式会社ジャックス

右代表者

河村友三

右訴訟代理人

中村薫

右訴訟代理人

八代紀彦

佐伯照道

西垣立也

辰野久夫

天野勝介

被控訴人(原審被告)

恩地満

右訴訟代理人

片岡成弘

登倉元子

福本基次

山崎優

平野鷹子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2(一)  (主位的)

被控訴人は、控訴人に対し、一八万四五三〇円及びうち一七万六三二五円に対する昭和五七年二月一二日から支払ずみまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。

(二)  (予備的)

被控訴人は控訴人に対し、一三万二八〇〇円及びこれに対する昭和五七年一二月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  主位的請求関係

1  請求原因

(一) 控訴人は、昭和五五年一〇月一〇日、被控訴人が株式会社ビデオライオンズ(以下、販売店という。)からビデオセット一式を代金二四万円で購入するに際し、被控訴人と次のとおり立替払契約を締結した。

(1) 控訴人は、右代金を被控訴人のため立替払する。

(2) 被控訴人は、控訴人に対し、右立替金に手数料七万九二〇〇円を加算した三一万九二〇〇円を昭和五五年一一月から昭和五八年一〇月まで毎月二七日限り、各五五〇〇円(但し、第一回目は六七〇〇円とし、右期間中の毎年一月と七月には各二万円を付加する。)宛三六回に分割して支払う。

(3) 被控訴人が右分割払金の支払を遅滞し、控訴人から二〇日以上の期間を定めて書面でその支払を催告されたにもかかわらず、同期間内にこれを履行しなかつたときは、期限の利益を失い、残金を一括して支払うとともに、これに対し期限の利益喪失の日から支払ずみまで年29.2バーセントの割合による遅延損害金を支払う。

(二) 控訴人は、右契約に基づき、昭和五五年一一月二〇日、販売店に右代金二四万円を立替払した。

(三) 控訴人は、被控訴人に対し、昭和五七年一月二二日到達の書面で、昭和五六年一一、一二月分の分割払金合計一万一〇〇〇円を右書面到達後二〇日以内に支払うよう催告した。

よつて、控訴人は、被控訴人に対し、右立替払契約に基づき、立替金等の残金二一万二〇〇〇円から期限の利益喪失後の手数料二万七四七〇円を控除した一八万四五三〇円及びこれから期限の利益喪失時までの未払手数料八二〇五円を控除した立替残金一七万六三二五円に対する期限の利益喪失日である昭和五七年二月一二日から支払ずみまで年29.2バーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)の事実のうち、被控訴人が販売店からビデオセット一式を代金二四万円で購入したことは認め、その余を否認する。

(二) 同(二)の事実は知らない。

(三) 同(三)の事実を否認する。

二  予備的請求関係

1  請求原因

(一) 被控訴人は、販売店からビデオセット一式を現金一括払で買受け、立替払制度を利用する意思がなかつたのであれば、控訴人からの立替払制度利用意思確認の問合わせがあつた場合、被控訴人が右制度を利用しない意思を表示しなければ、控訴人が販売店に商品代金を立替払することは容易に予見しうるところであり、これによつて控訴人が損害を受けることも予見できたから、被控訴人としては、右問合わせに対し、同制度を利用しない旨を明確に告知して、控訴人に対しその損害の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、昭和五五年一〇月一日、控訴人担当者から電話による立替払制度利用意思確認の問合わせを受けた際、販売店から現金一括払で買受け、立替払制度を利用しない旨を告知しなかつたばかりか、あたかも右制度を利用するかのような応答をした。

(二) そのため、控訴人は、昭和五五年一一月二〇日、販売店にビデオセット一式の代金二四万円を立替払し、同額の損害を被つた。

よつて、控訴人は、主位的請求が認められないときは、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害金のうち一三万二八〇〇円及びこれに対する不法行為の後の日である昭和五七年一二月一六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)の事実のうち、被控訴人が販売店からビデオセット一式を現金一括払で買受け、立替払制度を利用する意思がなかつたことは認め、その余を否認する。

(二) 同(二)の事実は知らない。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一主位的請求について

一請求原因(一)の事実のうち、被控訴人が販売店からビデオセット一式を代金二四万円で購入したことは、当事者間に争いがない。

二そこで、右購入代金について、控訴人と被控訴人との間で、控訴人主張の立替払契約が締結されたか否かについて判断する。

1  本件においては、控訴人の主張に沿う甲第一号証(クレジット契約書)が存在するけれども、〈証拠〉によれば、その契約名義人の筆跡は被控訴人のものとは相違し、印影も被控訴人の印章によつて顕出されたと認めるに足りる証拠がないうえ、その記載事項のうち、勤続年数、住居の種類、居住年数の各記載が事実に反するものであつて、これを真正に成立したものと認めることはできない。

2  もつとも、〈証拠〉によれば、昭和五五年一〇月一日午後一時五〇分ころ、販売店から、控訴人大阪支店に、被控訴人が販売店からビデオセット一式を購入するに際し、立替払制度利用の申込をした旨の連絡があつたため、控訴人大阪支店営業課の浜谷が信用調査原票に必要事項を記入し(甲第二号証)、その後、同日午後五時三五分ころ、同課の福田有子が被控訴人の勤務先に電話をかけ、被控訴人に対し、販売店からのビデオセット一式の買受けの事実、分割払申込意思、分割払の回数、支払方法等の確認(以下、立替払制度利用意思の確認という。)をしたが、その際被控訴人は、何らの異議も述べず、むしろ福田に被控訴人が右制度の利用をしたかのような印象を与えたことが認められ、右の事実は控訴人主張に沿うかのようであるが、前掲の甲第二号証によれば、右記載事項のうち事実に反する記載があることが認められ、これによれば福田の確認が十分になされなかつたことが窺われ、加えて、〈証拠〉によれば、被控訴人は、販売店の従業員西山に対し、当初から現金により一括払で購入し、立替払制度を利用する意思のないことを表明していたが、同日、福田から立替払制度利用意思確認の電話がある前、西山からの電話で、販売店の手違いないし内部事情により立替金契約になつたので、控訴人から電話があれば、説明だけですむからその説明を聞いて欲しいといわれたため、右立替払制度利用意思の確認に対しては特に異議を述べず、しかし、右制度を利用する意思があるとの応答もしなかつたこと、被控訴人は、甲第一号証の作成を当時知らなかつたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、以上によれば、被控訴人が控訴人からの立替払制度利用意思の確認に対し異議を述べなかつたとしても、この点から、被控訴人が右立替払制度を利用する意思を表示したとは言えないところであり、控訴人主張の立替払契約はこれを認めるに足りないといわなければならない。

他に右立替払契約を認めるに足りる証拠はない。

三以上のとおり、甲第一号証は真正に成立したものとは認められず、他に控訴人主張の立替払契約の成立を認めるに足りる証拠はないから、控訴人の主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第二予備的請求について

一請求原因(一)の事実のうち、被控訴人が販売店からビデオセット一式を現金一括払で買受け、立替払制度を利用する意思がなかつたことは被控訴人の自認するところであり、被控訴人が、昭和五五年一〇月一日、控訴人担当者からの立替払制度利用意思確認の問合わせに対して、販売店から現金一括払で買受け、立替払制度を利用しない旨を告知しなかつたこと、しかし、右制度を利用する意思があるとの応答もしなかつたことは前記第一、二で認定したとおりである。控訴人は被控訴人が右確認の際に右制度を利用するかのような応答をしたと主張するが、右の認定以上にこれを認めるに足りる証拠はない。

二そこで、被控訴人に、控訴人からの立替払制度利用意思確認の問合わせに対し、その利用意思のない旨を明確に告知すべき注意義務があつたか否かについて検討する。

1  被控訴人が、販売店の従業員西山に対し、当初から現金により一括払で購入し、立替制度を利用する意思のないことを表明していたこと、しかし、昭和五五年一〇月一日、控訴人から立替払制度利用意思確認の電話がある前、西山からの電話で、販売店の手違いないし内部事情により立替払契約になつたので、控訴人から電話があれば、説明だけですむからその説明を聞いて欲しいといわれたため、被控訴人は、右立替払制度利用意思の確認に対して、特に異議を述べなかつたこと、甲第一号証は、被控訴人の意思に基づいて作成されたものとは認められず、被控訴人がその存在を当時知らなかつたことは前認定のとおりである。

2  そして、被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は、控訴人と販売店を一体のものと認識し、手違いないし内部事情によつて立替払契約となつたのであるから、その後の問題は控訴人と販売店の間で適正に処理され、被控訴人自身には関係のない事柄であると考えていたことが認められ、右1のような事情に加えて、〈証拠〉により認められる控訴人と販売店との間の密接な関係を併わせ考慮すれば、被控訴人が右のように考えることも無理からぬところであつて、結局、被控訴人には、控訴人に損害を与えることについての予見可能性がなく、立替払制度利用意思のない旨を明確に告知すべき注意義務は認められない。

三以上のとおり、控訴人の予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第三結論

結局、控訴人の請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(石田眞 松本哲泓 村田鋭治)

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